企業向けメッセージングはビジネスを変容させるのでしょうか?

生産性向上

企業向けメッセージングはビジネスを変容させるのでしょうか?

フレキシブルなチームやリモートチームに参加しているなら、SlackやFlock、Fuzeといった企業向けメッセージングプラットフォームを使えば、顧客や同僚とのコミュニケーションが根本的に変えられるかもしれません。テクノロジージャーナリストであるジェームズ・デイ氏に、知っておくべきことを伺いました。

 

WhatsAppのようなアプリケーションで、社内の業務上のコミュニケーションに使われるものを、企業向けメッセージングと呼んでいます。セキュアなインスタントチャットアプリを使えば、スタッフ間の対話を促進し、生産性を高めることができます。メールのやり取りに時間を取られたり、長時間の会議に拘束されたりする必要がなくなります。

企業向けメッセージング業界では、世界全体で500万人とされるユーザーが、今後10年間で10億人に増加すると予測しており(※1)、現在すでに急成長している市場は、さらに爆発的に拡大すると見られています。数多くのプラットフォームが存在し、人工知能(AI)や拡張現実(AR)、モノのインターネット(IoT)、バーチャルリアリティー(VR)といったエキサイティングなテクノロジーも活用されている中、最適なメッセージングプラットフォームを選ぶにはどうすれば良いか、ポイントをご紹介します。

1. 今切り替えるべき理由

オープンで効率的なコミュニケーション。これこそがあらゆる企業が必要としているのに、実現できているとは限らないことです。メール至上主義も理解できますが、1回の会議を設定するために何度もメールをやり取りすることを考えれば、生産性の低下は明らかです。プロジェクトのすべての関係者と、瞬時にリアルタイムで対話できる様子を想像してみてください。そもそも会議など必要ないと思うかもしれません。

セキュアな企業向けメッセージングは、単なるメールの代用品ではありません。目的をより早く達成するために、面倒なことや不必要なことを回避できるということです。メッセンジャーアプリのFlockが2017年に英国で実施した調査では、ユーザーによる会議の回数やメールの数が最大70%も削減されたとしています。

「ビジネスエコシステムが拡大し、ワークプレイスでの活動にはコラボレーションがより一層欠かせないものになりました」と、Flockの創業者で大富豪でもあるバビン・ツラキア氏は述べています。「だからこそ、ワークプレイスで発生する多くの課題に素早く対応する必要があるのです。シームレスでリアルタイムなコラボレーションを実現するツールが、今必要とされていることは明らかです」

2. 注目すべき点

IT関連の問題や遅いシステム、時代遅れのツールが原因で、1人あたり毎日27分間(1か月あたり丸1日に相当)の生産的な時間を失っているとされています(※2)。日々の業務プロセスを効率化できるツールがあれば、大当たりは間違いありません。

上位の企業向けメッセージングサービスでは、単なる便利なチャットだけではない機能を提供しています。第一に、デスクトップパソコンやノートパソコン、スマートフォン、タブレットなど、さまざまなプラットフォームでシームレスに動作する機能があげられます。音声通話やビデオ通話も利用できます。

第二に、デジタルコンテンツを簡単に共有できる機能があげられます。たとえば、通常ならメールに添付する文書を、ドラッグアンドドロップで共有できる機能があります。Dropbox、Trello、MailChimpなどの外部アプリと統合されていれば便利です。多層暗号化を備えたセキュアなクラウドストレージも同様です。

最後は、ビジネスの規模に合わせて拡張でき、チームが拡大してもパフォーマンスが低下しないサービスです。Flockは、コンサルティング企業のアクセンチュア、電子機器メーカーのリコー、スイスアーミーナイフのメーカーであるビクトリノックスといったグローバル企業に採用されています。Flockよりもさらに普及しているSlackは、大手コンピューター企業のIBM、英国のテレビ放送事業者であるITVのほか、サムスンやAirbnb、eBayなどが利用しています。

3. 流行の最先端

スピーディーな印象が重要だと考えれば、需要を喚起しているサービスがどれも業界用語風の名称なのも不思議ではありません。Fuze、Flock、そしてSlackはメッセージングプラットフォームとしてすでに定着し、上記に挙げた基準をすべて満たしています。この3つのプラットフォームはエンドユーザー向けで、非常に簡単なセットアップだけで利用できます。

一方で、Twilioは、自社のソフトウェアにリアルタイムメッセージングを組み込もうとしている開発者向けです。ドイツの銀行や警察で利用されているTeamwireや、最近シスコシステムズに買収されたBroadSoftも同様です。

機密情報を扱っている、通信をファイアウォール内に留めたい、クラウドを信用できずローカルサーバーを使いたいなどの要望がある場合は、オープンソースソフトウェアの自由度は特に魅力的かもしれません。その場合は、Rocket.ChatやMattermost、Oneteamといったサービスを選びましょう。そうでなければ、残りの数多くのサービスから最善のものを選ぶことになります。ほとんどの場合、こうしたサービスは無料でダウンロードして利用できますが、有料で追加機能が提供されています。

クラウド経由のリアルタイムメッセージングも、生産性を向上させるのは間違いありません。たとえば、新しいスタッフが入社し、すぐに進行中のプロジェクトに参加しなくてはならない状況を想像してみてください。チームの会話履歴や共有文書に瞬時にアクセスできるので、即戦力としてすぐに活躍できます。時間のかかる会議や電話会議を設定したり、過去のメールのやり取りを大量に転送したりする必要はありません。

4. 四大巨頭

マイクロソフト、Google、Amazon、Appleの4社も忘れてはなりません。Microsoft TeamsはOffice 365の一部ですが、他社製品と統合することも可能です。マイクロソフトは80億ドルでSlackを買収することを検討していましたが、その後、ビル・ゲイツ氏はむしろSkype for Business(「5. ソーシャルメディアが重要な存在に」参照)の開発費用を集めていると伝えられ、買収計画を撤回しました。

Google Jibeは、リッチコミュニケーションサービス(RCS)と称されるサービスです。企業向けメッセージングアプリと非常によく似ていますが、Androidユーザーだけを対象としています。一方で、現在開発中と伝えられているAmazon Anytimeは、デスクトップデバイスにもモバイルデバイスにも対応し、より消費者向けになると言われています。

AppleのBusiness Chatは、今年リリース予定のiMessageの新機能です。銀行などの企業に対しサポートを受けたい顧客がコンタクトする場合に、より簡単にやり取りできるようにするものです。iPadやiPhone、Apple Watchなど、すべてのiOSデバイスで同期できるため、すでにAppleのエコシステムに慣れ親しんでいるユーザーにとって、メリットがあることは明らかです。さらに、SafariのリンクやMaps、Spotlight、音声アシスタントのSiriから、対話を始めることもできます。

企業向けメッセージングはどのようにしてビジネスを変容させるのでしょうか?

Altspaceでバーチャルアバターが集まっている光景

 

5. ソーシャルメディアが重要な存在に

WhatsAppは新興市場の中小企業ユーザーに愛用されており、同社によればブラジルとインドでは中小企業の80%がサービスを利用しているとのことです。同社がAppleのBusiness Chatと同様の機能をもつWhatsApp Businessを、現時点ではAndroidだけを対象にリリースしている理由も、こうした利用状況を反映しているのかもしれません。

Workplace by FacebookやSkype for Businessも、消費者向けプラットフォームから企業向けに進出した事例です。Workplaceは、Facebookに似た外見と機能を有していますが、職場の同僚とのやり取りに限定し、企業向けメッセージングの長所が散りばめられています。Skype for Businessも、友人の代わりに職場の同僚を対象としています。現在はOffice 365に統合されていますが、今後、マイクロソフトの大規模な計画の一環として、Microsoft Teamsに吸収されると伝えられています。この計画は、同社が買収しようとしていたSlackにプレッシャーを与えるためのものと言われています。

使い慣れたプラットフォームを利用することで、スタッフが格段の速さで操作方法を把握できるというメリットがあります(結果的に生産性も向上します)。さらに、こうしたプラットフォームを個人のメッセージングアカウントから切り離し、ビジネス用途に限定することで、「いいね!」や「タグ付け」などの通知が業務時間中に表示されることもなく、業務に集中できます。

6. IoTとAI

AmazonのEcho Dotで、Slack上のチームメンバーにメッセージを送るようAlexaに指示する様子を想像してみてください。IoTを活用したスマートホームデバイスの台頭によって、企業向け音声メッセージングが可能となりました。さらに、ちょっと恐ろしい(?)IoTの活用例が、出退管理を行うスマートシステムです。自席でカードをサッと通して読ませると、出社したことが確認され、すぐに社内に通知されます。

機械学習とメッセージングの組み合わせと言えばチャットボットがありますが、AI機能を搭載した企業向けチャットボットなら、平凡な業務から活発なビジネスを生み出してくれます。情報をより速く見つけたり、会議を企画したり、アポイントメントの設定や変更を行ったり、業務に必要な社内データを収集するといった業務がこれにあたるでしょう。これまで、企業向けチャットボットの設定はコーダーの専門領域でしたが、ChattyPeopleのようなプラットフォームを使えば、とても簡単に設定できます。

7. VRとAR

異論もあるかもしれませんが、今、消費者向けエレクトロニクスで最もエキサイティングな技術と言えば、VRとARです。今後のビジネスコミュニケーション、さらにはビジネスコラボレーションの一翼を担う技術です。VRとARの技術のおかげで、実際の会議室を探す必要はもうありません。さまざまな場所からデジタル世界の中へ集まればいいのです。

Windows Mixed Realityは、マイクロソフトが提供する手頃な価格のVRシステムです。Altspaceと提携し、バーチャルな会議スペースを提供しています。そこでは、同僚がアバターとなって集まっている部屋に、あなたも参加できるというわけです。ARも同様のシステムですが、VRと違う点は、他の参加者が現実世界にホログラムのように登場するということです。必要なグラフやプレゼンテーション、スライドも表示されます。Flockのバビン・ツラキア氏は次のように述べています。「こうした技術の進歩によって、世界中の企業がさらにつながってビジネスが強固なものとなり、目標を達成できるようになるでしょう」

今や、多くの最新技術の融合と進歩によって、21世紀にふさわしいフレキシブルな働き方の時代をもたらしています。つまり、企業向けメッセージングにとってエキサイティングな未来が待っているということです。さあ、あなたのワークプレイスではどれを選びますか?

 


ジェームズ・デイは、英国を拠点とするテクノロジージャーナリストです。

出典:

(1)https://www.computing.co.uk/ctg/opinion/3020779/navigating-the-enterprise-messaging-market-why-and-how-to-choose-the-best-fit-for-your-business-needs

(2)http://www.managed.co.uk/news/uk-workforce-productivity-survey-2017