超高速の無線ブロードバンドの登場が、すぐそこに迫っています。これにより、いつでもどこでも、効率的に仕事ができるようになると言われています。ジェームズ・デイ氏が、デジタルノマドの新しい夜明けを紹介します。また、瞬時に接続できる点からクラウド型AIをより早く採用できる点まで、5Gネットワークがもたらすものについて考察します。
5Gの世界初の公共実験が、オーストラリアで開始されました。ギガビットの速度を誇るこの無線ブロードバンドにより、一般的には、新たなケーブル敷設のために「地球の裏側まで」掘る必要がなくなると考えられています。そのため、まさに地球の裏側のオーストラリアで実験が開始されたのには、多少皮肉な面もあります。
実際のところ、5Gとは、技術そのものを指すのではなく、モバイルネットワークや衛星通信、電力線通信のほか、過去に埋設されたケーブルの更新により実現される、次世代のインターネット速度を総称するマーケティング用語です。
GSMA Intelligence(※1)によれば、北米や、ヨーロッパとアジア太平洋の主要マーケットでは、5Gは今後3年以内に実用化されると見られています。また、スマートフォンなどの新しい5G対応デバイスは、2019年までには登場する見込みです。
リモートワーク(テレワーク)への依存度が高まる中、すぐに使えて、高速で安定した接続が可能である点が、非常に重要となってきます。というのも、英国と米国の人口の半数は、2020年までにリモート勤務になると見られているのです(※2)(※3)。これは、モノのインターネット(IoT)のデバイスや人工知能(AI)に対する需要が話題となる前から言われていることです。
ひとまず、そうした頭痛の種はネットワークに任せるとして、ここでは5Gによって質とスピードを高められるという点に絞って話をしていきましょう。
1. より優れたビジネスコミュニケーション
業務でのコミュニケーション方法について見てみましょう。一般の電話、テレビ電話、メール、企業向けメッセージングサービス、リモートアクセス可能なアプリケーション、コンテンツ管理システムなどがありますが、すべて生産性や収益性を高め、成功を得るのに必要なものです。
では、高速で信頼できる接続にアクセスできなかった場合に、進捗を妨げる恐れがある問題について考えてみてください。ネットワークの提供範囲が狭い、通話が途切れる、映像が不安定で低解像度になる、ログオン、ダウンロード、応答に十分な帯域幅がないなどが挙げられます。
高速の5G接続によってモバイルブロードバンドが広範囲で強化されれば、こうした問題を解消できるとされています。例えば、高解像度の動画、音声、画像を、非常に低レイテンシーでストリーミング配信できるようになります(レイテンシーとは、データの転送を指示してから実際に転送されるまでの遅延時間のこと)。
GSMA Intelligenceのシニアアナリスト、デニサ・ニキフォロフ-ツァン氏は次のように述べています。「世界中の携帯電話事業者の大多数が、5Gの展開後しばらくの間は、強化されたモバイルブロードバンドが顧客への提案の中心になると指摘しています」
オフィスを離れている時に(オフィスがある場合ですが)、あるいは顧客やクライアント、同僚に会う時に、コラボレーティブな環境で仕事をすることが多いですか?そうした環境で今のように何度も中断されることなく瞬時にコミュニケーションできたとしたら、鼻詰まりを解消されたような爽快さを感じるでしょう。
2. よりスマートな人工知能
音声起動型のデジタルアシスタントによって、移動中のスタッフはどれほどの時間を節約できたでしょうか。テキストメッセージやメールの作成、リマインダーやToDoリストの作成、カレンダーのスケジュールの整理が、すべて音声で操作できるようになったのです。
5Gネットワークとクラウド型のAIを組み合わせると、機械学習を迅速化でき、言語を文脈の中で理解できるようになると期待されています。現在、AlexaやSiri、Googleアシスタント、Cortanaが使われ始めていますが、リクエストを正しく理解できないことも多く、ユーザーが使用をためらう要因の一つになっています。
予測では、2020年までに、あらゆる検索の50%が音声で行われるようになるとされ(※4)、約30%は画面を一切使わずに行われるとされています(※5)。5Gによって、必要な情報により早く、より信頼できる形でアクセスできるようになり、AIを備えたサービスを加速させることになります。
主な例の一つが、AmazonやGoogle、NVIDIAが提供しているテキスト読み上げサービスです。PDF文書がポッドキャストのように読み上げられたり、画面を使うことなくプレゼンテーションのノートが呼び出されたりするのを想像してみてください。もちろん、視覚に障がいのある従業員に対するメリットは、言うまでもありません。
Microsoft HoloLensを使えば、現実世界に現れるホログラムとやり取りすることができます
3. モノのインターネット
リモートで生産管理をしたり、あらゆる関連プロセスをつないで顧客への配送を迅速化したり、ネットワークに接続されたデバイスによってビジネスのやり方が変わりつつあります。
5Gネットワークは、モノのインターネット(IoT)により増加する接続需要にも耐えられるようにつくられているため、1平方キロメートルあたり最大100万個のデバイスが接続できるようになっています(※6)。また、エネルギー効率が良いため、バッテリーも長持ちします。
エリクソンは、5Gがまず主要な大都市圏で展開され(※7)、ネットワークに接続された信号機や自動運転、ロボット工学といったスマートシティソリューションにより、出張にメリットがもたらされることを期待しています。
「モノのインターネットと人工知能を採用することが主流になりつつあり、革新や成長、生産性向上の機会を創出しています」と、ニキフォロフ-ツァン氏は述べています。「今後10年間で、5Gは、こうした主なトレンドの発展に貢献するでしょう」
4. 会議をより楽しく
電話会議というものは、仕事中でも確実に眠たくなるものです。誰かが紅茶の仕入れ先の変更によるコスト削減についてプレゼンする中、6枚目のスライドに移ったあたりで眠気に襲われるでしょう。
これが、5Gによるホログラムを使った会議であれば、利用者は専用眼鏡の有無にかかわらず3Dのプレゼンテーションを見ることができ、その可能性を驚きとともに注視することになるでしょう。拡張現実(AR)や仮想現実(VR)と同様の一方向のテクノロジーですが、5Gによって増強される帯域幅が役に立ちます。
Microsoft HoloLensを使えば、現実世界に現れるホログラムとやり取りすることができます。一方、Windows Mixed Realityでは、自分や同僚のアバターが集まるバーチャルな会議スペースを創り出します。Windows 10を搭載したパソコンとヘッドセットさえあれば、プロジェクトでのコラボレーションやアイデアの共有が、よりエネルギッシュでエキサイティングなものになります。
ニキフォロフ-ツァン氏は、次のように述べています。「優れたデータストリーミングを低レイテンシーで実現する5Gの導入により、ARとVRに恩恵がもたらされると期待されています」
5. 「ネットワークスライシング」がITの新たな必須用語に
CTO(最高技術責任者)、ITマネージャー、プログラマー、コーダーといった方々にとって、「ネットワークスライシング」と聞けば、5Gを目前にして喉から手が出るほど欲しいものでしょう。
これは、5Gを提供する事業者が、サービスの一部をアプリケーションやサービス、デバイスに関する特定のニーズに限定できるようにするものです。これにより、十分な専用帯域幅が安定して供給され、効率的に業務を進められるようになります。
速度、容量、接続性、および提供範囲が、各利用ケースの需要に応じて割り当てられます。例えば、テレビ会議を他から切り離し、他の通信量に影響されないようにすることができます。また、サイバー攻撃を受けた場合でも、1つの「スライス」部分に被害が限定されるため、セキュリティの向上にもつながります。
共有のワークスペースでは、クラウドコンピューティングの作業に対し、専用スライスが役に立つ可能性があります。昼休憩中にNetflixを視聴しているユーザーに影響されずに済むからです。また、自宅をオフィスとしている場合は、メール通信とオンラインゲームを別々のスライスに設定するとよいでしょう。「Call of Duty」を、これまでにない快適さでプレイできるはずです。
「ネットワークスライシングは、最も有望な選択肢の一つです。事業者が、ネットワーク容量に「スライス」と呼ばれる限定されたセグメントを確保し、特定の顧客にサービスの品質を保証することができます」と、ニキフォロフ-ツァン氏は述べています。
ジェームズ・デイは、英国を拠点とするテクノロジージャーナリストです。
出典:
(※1)https://www.gsma.com/mobileeconomy/wp-content/uploads/2018/02/The-Mobile-Economy-Global-2018.pdf
(※2)http://smallbusiness.co.uk/half-uk-workforce-remotely-2020-2540827/
(※3)https://www.verdict.co.uk/half-us-workforce-will-work-remotely-2020-need-5g-internet/
(※4)https://www.campaignlive.co.uk/article/just-say-it-future-search-voice-personal-digital-assistants/1392459
(※5)https://www.mediapost.com/publications/article/291913/gartner-predicts-30-of-searches-without-a-screen.html
(※6)https://arstechnica.com/information-technology/2017/02/5g-imt-2020-specs/
(※7)https://www.ericsson.com/en/press-releases/2017/11/ericsson-predicts-1-billion-5g-subscriptions-in-2023